お子さんが自閉症スペクトラム障がいと診断されたとき、あなたはお子さんの障がいについて説明を受けます。
その説明を、あなたはすぐ理解できましたか?
私は、長男が自閉症と診断されたとき、先生の話を聞いてはいましたが、ショックが大きかったせいか、頭の中には全く入っていませんでした。
ただその時は、これからのことを考えることが精一杯だったので、自閉症がどういった障がいであるかを正しく理解していなかったと思います。
でも、同席していた主人が、その後に様々な本を読んで理解し、私に自閉症に関する基礎知識をレクチャーしてくれたおかげで理解することができました。
この基礎知識ですが、これからあなたが、自閉症についての専門書や療育法を理解するのに役に立つでしょう。
目次
自閉症とは?
自閉症を初めて広めたのは、アメリカの精神科医レオ・カナーです。
カナーは、1943年、論文の中で自閉症の中心的な症状を5つとりあげました。
- 他人との感情的(情緒的)な接触が乏しい
- 言葉によるコミュニケーションがうまくいかない
- 特定の状況にこだわり、変化を嫌う
- 物体に対する興味が強く、それを操作する
- 認知能力は低くない
他人との感情的(情緒的)な接触が乏しい
自分が嬉しい・悲しいと思っても、他人とその感情を共有できないのが特徴です。
そのため、自分が嬉しいと思っていても、表情は無表情でいます。
長男も、2~3歳の頃にどこかへ出かけても、常に無表情でした。
私が「楽しいね」などと呼びかけても、やはり無表情。
そのため、「本当は来たくなかったのかな?」「楽しくないのかな?」と思ってしまいました。
また、感情の共有ができないため、相手が何を考えているのか表情からそれを想像することができません。
いつもは無表情が多い長男ですが、私に怒られたときは何故かヘラヘラ笑っていました。
当時はどうしてヘラヘラ笑うのかわからず、むしろ余計に腹を立ててしまいました。
でも、今考えると、私の表情で「怒っている」ということが想像できていなかったんだと思います。
言葉によるコミュニケーションがうまくいかない
相手が理解できる言葉を話せないほかに、相手が話している内容を聞き取れていない、また理解できないのが特徴です。
長男は、小さい頃から言葉はなく、「あ~」「う~」「うぃ~」と言ったり、突然よくわからない言葉を話していました。
小さい頃であれば、車だったら「ぶーぶー」と発語がありますが、それもなかったです。
また、こちらが話していることを理解しているようで、理解していない感じで、発語がないためそれを確認することもできませんでした。
特定の状況にこだわり、変化を嫌う
常に同じ状況を好み、少しでも違っているとかんしゃく等を起こすのが特徴です。
長男はよくレゴブロックを並べていました。
それに順序があるようで、私が少し触っただけでも、パニックを起こし、ブロックの並びをぐちゃぐちゃにしたあと、また並び直していました。
物体に対する興味が強く、それを操作する
人や動物などの生物よりも、ブロックやおもちゃなどの物体に興味を示しやすいことです。
長男が2~3歳頃は、私や主人に興味がありませんでした。
公園に遊びに行ったときに、私や主人が長男の視界からなくても、穴や水たまりに石をひたすら入れることに夢中でした。
石が穴に落ちた様子や、水たまりに入れた時に起こる水の波紋に興味があったのだと思います。
認知能力は低くない
認知能力とは、物や人、場面などを区別し、認識する能力です。
長男と車でスーパーまで出掛けた時、いつもとは違う道で目的地まで行こうとすると、必ずパニックを起こして、泣いていました。
また、長男は高速道路が好きで、高速道路へ行く道だとわかると、すごく喜んだりするなど、記憶力が良かったです。
カナーの論文により、その頃の医学では見過ごされてきた障がいに注目が集まりました。
しかし、この論文が発表された頃は、第2次世界大戦中で、日本に「自閉症」という概念が入ってきたのは、戦後の混乱がようやく収まった1940年代の終わり頃でした。
1950年代後半から、「自閉症」は、心理学や精神医学の世界の中で使われるようになりました。
ただ、カナーの診断基準で「自閉症」と診断された多くの子供たちは、言葉の能力が低かったため、「自閉症」=「知的障がいを伴う」と考えられてきました。
事実、発達検査や知能検査を行ってみると、「知的障がいがある」と判定される子供たちが多かったのです。
ローナ・ウィングが提唱した「自閉症の3つ組」
ただ、この「自閉症」=「知的障がいを伴う」という考え方に異論を唱える人が現れたのです。
それは、自らも自閉症児を抱える母親でもあり、世界的な児童精神科医として知られるイギリスのローナ・ウィングです。
彼女は、「自閉症児は必ずしも知的障がいを伴うものではない」と提唱しました。
ウィングは、「カナーの自閉症」とは異なる「自閉症の3つ組」と呼ばれる中心的症状を掲げて再定義しました。
- 社会性の問題:人と関わるよりも物に執着したり、他人を意識して行動することができない。
- コミュニケーションの問題:他人との会話や意思伝達がうまくできない。
- 想像力の問題:「ごっこ遊び」など、その時の状況や場面に合った行動ができない。
あなたは、気づいたでしょうか?
先ほどの「カナーの自閉症」の定義と「自閉症の3つ組」の障がい概念は、重なる部分があります。
でも、「カナーの自閉症」が言語を中心としたコミュニケーション障がいに対し、
「自閉症の3つ組」は、言語に限定せず広いコミュニケーション障がいを対象としています。
このウィングの主張により、言語障がいがなく、知能指数も高いのにかかわらず、他人とのコミュニケーションに障がいを抱えて、社会的に不適応を起こす人が少なくないことが、1980年代から国際的にも知られるようになってきたのです。
アスペルガー症候群とは?
1970年代、ウィングは、1944年にオーストラリアのハンス・アスペルガーが発表した論文をみつけます。
この論文は、知的に劣っているとは思えないのに、コミュニケーションがうまくできない、しかしその一方で、何かに集中し始めると止まらないなどの症状を持つ子供たちの症例が報告されていました。
この報告により、このような症状がある障がいを、アスペルガー症候群と名付けられたのです。
このアスペルガー症候群の台頭により、「自閉症」=「知的障害を伴う」という昔からの概念が大きく変化するきっかけとなったのです。
そして、ウィングたちは、自閉症やアスペルガー症候群を総じて「自閉症スペクトラム障がい」という包括的な概念を提唱しました。
また、ウィングたちは、知的障がいを伴なわないが、言葉の遅れがある場合を、自閉症をアスペルガー症候群ではなく、「高機能自閉症」と位置付けました。
ここまで読んでいただければ、アスペルガー症候群とは自閉症スペクトラム障がいの中の一部だということが分かると思います。
混乱する自閉症の定義や呼び方
一口に自閉症といっても、知的障がいを伴うものから、知的障がいがない高機能自閉症、さらに言葉の遅れもないアスペルガー症候群等のように、その対象となる人はとても幅広くなります。
そのため、それぞれを専門にしている医師や研究者によっても、微妙に使う用語が違っていたりするのです。
また、「自閉症スペクトラム障がい」は、最初に「広汎性発達障がい」と翻訳されたため、同じ意味で2つの用語が存在していたりします。
このように、自閉症の定義や呼び方は統一したルールがなかったため、親が初めて勉強を始めたときに、最初に混乱を招く要因となっていました。
このような多くの用語がある中で、2012年には「自閉症スペクトラム」という1つの用語に統合されることになったのです。
これは、専門家の方々が診断のガイドラインとされている「精神障がいの診断と統計マニュアル」(DSM)がありますが、2012年に第5版に改訂されました。
日本においても、2014年に日本語訳版が出版され、その中では、それまで定義されていた「広汎性発達障がい」「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」が、「自閉症スペクトラム」に統合されたのです。
発達障がいとは?
日本で2004年に発達障害者支援法が制定された頃から、「発達障がい」という用語が知られるようになりました。
この「発達障がい」ですが、定義が明らかなものではありませんが、行動やコミュニケーションを含んだ障がい全般を対象としたものです。
そのため、自閉症スペクトラム障がいよりは広い概念となっています。
ちなみに、自閉症も発達障がいの一部としてされています。
あなたは、ADHDとLDをご存知でしょうか?
ADHDとは?
ADHDは、発達障がいの一部で、「注意欠陥・多動性障がい」と呼ばれています。
症状として、忘れ物が多い、集中力が続かない、じっとしていられないのが代表的な特徴です。
また、ADHDは3つに分類され、これらの症状が6ヶ月以上続き、社会生活上の障がいになっていることが、診断の条件となります。
- 不注意型:忘れ物が多い、作業を途中で投げ出してしまうなど不注意の症状が中心。
- 多動・衝動型:空気を読まないで集団に割り込むことや、飛び出すなどの衝動性と、じっとできずに動き回るなどの多動がある症状が中心。
- 混合型:不注意型と多動・衝動型の両方の症状があること。
我が家の次男は、自閉症スペクトラム障がいと診断されていますが、落ち着きがなく、周りの人の空気を読みません。
また、興味のあるものが視界に入ると、平気で道路に飛び出したりします。
そのため、ADHDの多動・衝動型も当てはまるかもしれません。
LDとは?
LDは、発達障がいの一部で、「学習障がい」と呼ばれています。
読み、書き、算数の学習が、小学校低学年では1学年以上、高学年以上または中学では、それぞれに2学期以上の遅れがある場合に学習障がいを疑います。
ただ、日本では早期発見ではなく、遅れをきっかけにして発見される場合が多いです。
そのため、学習が始まっていない幼児期に発見されたり問題になったりすることは少ないです。
また、図形のイメージが理解できない、その他に漢字は読めないが、ひらがなとカタカナには全く問題がないなど、特殊な学習障がいもあります。
ただ、その背景に知的な障がいがあれば、診断は知的障がいになってしまいます。
未だ複雑な障がいの概念
これまで、自閉症・ADHD・LDなど紹介してきましたが、これらが合併することがあります。
つまり、自閉症・ADHD・LDのそれぞれの症状を併せ持つ子供がいるのです。
ちなみに、ADHDやLDは、知的能力や基本的生活能力には、著しい困難を伴いません。
したがって、知的な障がいを伴っている場合は、知的障がいと診断されます。
ADHDやLDを伴っている場合は、知的障がいを伴わない、高機能自閉症と診断されていました。(現在は自閉症スペクトラムに統合)
この複雑になる障がいの概念ですが、医師・心理職や教育関係者の間でも様々な誤解もあるようです。
そのため、あなたの正しい理解が必要なのです。
今まで述べたことを図にまとめてみましたので、参考にしてください。
自閉症児が急増している背景と療育方法の変化
1970年代、自閉症は、知的障がいを伴うと考えられてきました。
また、高機能自閉症は対象とされていなかったので、自閉症児は数千人に1人と考えられてきました。
1980年代以降に、自閉症の中に高機能自閉症で知的障がいを伴わなくても、自閉症の症状があるが明らかになってきました。
そのため、自閉症児と対象となる人数は、100人~150人に1人に変化し、ごくありふれた障がいとして知られるようになったのです。
昔は幼児健診時に今ほど発達障がいについてクローズアップされたいなかったため、仮に自閉症スペクトラム障がいであったとしても、知的障がいを伴わないということで、診断がされなかったのだと思います。
しかし、今では発達障がいの中には自閉症スペクトラム障がいというものがあり、その中でも、知的な遅れを伴わないものが合ったりなど、さまざまな症状があることが知られるようになったため、早期に発見されやすくなったのです。
そのため、自閉症児は純粋に増えているわけではなく、診断されるお子さんの数が増えるようになったため、相対的に増加しているように見えているのかもしれません。
また世界各地で、自閉症の科学的な発症原因を探る研究が進められています。
あなたも自閉症の原因について調べたことはないでしょうか?
私達も、長男に診断がおりたとき、ネットで調べました。
遺伝子の異常・環境の影響・・・いろんな原因が提唱されていますが、どれも関連は明らかになっておりません。
また自閉症の原因を出生前ではなく、親の育て方に関係があると、1950年代のアメリカのブルーノ・ベッテムハイムによる理論がありました。
彼は、自閉症は「育て方」「母親の対応」におって引き起こされると提唱したのです。
そのため、療育法として遊戯療法・甘え療法・抱っこ療法などが、勧められてきました。
しかし、1960年代後半からアメリカのバーナード・リムランド、エリック・ショプラーなどにより、自閉症は脳の障がいであり、それに見合った対応をすべきという考えが、提唱されたのです。
これが現在の通説となっていますが、ベッテムハイムが提唱した「育て方」「母親の対応」が原因と今でも考えている人は少なくありません。
でも、今では母親の愛情面を中心とした療育法ではなく、エリック・ショプラーやアイヴァー・ロヴァースが唱える行動療法(ABA)などが中心となってきています。
まとめ:自閉症を正しく理解する
自閉症は、アメリカのカナーが提唱したことから始まりました。
当時は「知的障がいを伴う」ことが自閉症の定義となり、知的障がいを伴わない場合は対象外とされていました。
しかし、自閉症の症状は必ずしも知的障がいを伴うものではありませんし、その症状も多様で個人差が大きいです。
そのため、ウィングが「自閉症の3つ組」と呼ばれる特有の症状を改めて提唱しました。
全く同じ性格を持った子供がいないように、自閉症スペクトラム障がいについても、重度から軽度に至るまで様々なお子さんがいらっしゃいます。
知的障がいを伴わない、アスペルガー症候群(言葉の遅れを伴わない)や高機能自閉症(言葉の遅れを伴う)についても、多く判明されてきました。
そのような中、自閉症の定義や呼び方は統一したルールがなかったため、「自閉症スペクトラム」という1つの用語に統合され、さらにADHDやLDなどの障がいも含めて、「発達障がい」とまとめられたのです。
ただ、この「自閉症」から始まったカテゴリーや名称は、今後また変化していく可能性は、十分にあります。
でも、あなたが今までの流れを正しく理解すれば、様々な書籍等で新しい情報を見聞きしたときに、正しい判断ができるでしょう。
そしてそれは、あなたのお子さんの療育法の模索や、障がいへの深い理解に結びつくのです。
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