自閉症児の特有のしぐさの中に、「逆さバイバイ」があることは、ご存知でしょうか?
「逆さバイバイ」とは、相手に手を振るとき、手のひらを相手に向けるのではなく、自分に向けてバイバイをすることです。
自分に向けてバイバイをしているので、「逆さバイバイ」と呼ばれています。
目次
自閉症児が苦手な「模倣」
もちろん、お父さんやお母さんは普通にバイバイを教えているつもりです。
私達の時もそうでしたが、特別に変な教え方をしたつもりはありません。
でも、なぜか自分に向けて、バイバイをするようになってしまったのです。
自閉症児は、なぜ「逆さバイバイ」をするのでしょうか?
理由のひとつとして、自閉症児は、相手の行動を自分に置き換える「模倣」がとても苦手だからです。
模倣ができるということは?
お母さんやお父さんの言葉や動作のまねをすることは、とても重要な能力です。
なぜなら、「まねをする」ということは、さまざまな能力を獲得するうえでの土台(基礎)になる力だからです。
例えば、皆さんも、新しい料理に挑戦する時や新しい趣味を始めるときには、まず何かを手本にして、まねたりしますよね?
ですから、新しい能力を獲得していくためには、
「他の人はどうやっているのかな?」
「僕も同じようにやってみよう。」
「同じようにできた!うれしい!」
このように、模倣ができる能力を育てる必要があるのです。
では逆に、なぜ自閉症児には、模倣の力が弱いお子さんが多いのでしょうか?
それは、やはり人に対する関心の弱さにあるのだと思います。
生まれながらに、人に対する関心が弱ければ、そもそも人の動きに関心を持ちません。
人の動きに関心がありませんから、同じように動いて遊んでみよう、という気持ちが芽生えにくいのです。
ですから、実は自閉症児にとって、模倣の獲得というは想像以上に負担の大きい課題なのです。
では、子供達はどう思っているのでしょうか?
私達は、子供達はこう考えていると思います。
「どうして、頑張ってまねしないといけないの?」
ここに問題があるのです。
興味や関心が無かったり、少ないということは、上手になっていくうえで、壁になりやすいです。
人間には、生来から人に対して関心を持っていますし、逆に人から関心を持ってもらいたいという強い欲求があります。
自閉症の子供達は、ここが弱い子供達が多いように感じます。
ですから、模倣の獲得の練習の際には、人と関わることへの喜びが大きくなるように、努力する必要があります。
単に模倣ができるように練習していると、お子さんが嫌になって諦めてしまうかもしれません。
模倣ができるようになった時、あなたがお子さんを褒めることで、子供達の脳は活性化されていきます。
人と関わることへの喜びがわかる→模倣の獲得ができる→お母さんも嬉しい→褒められることで人と関わることへの喜びがさらにわかる
このように、親子にとって良いスパイラルに入ることがとても重要です。
そして、お子さんが模倣をできるようになってきたということは、療育が進んでいる・うまくいっていることを意味するのです。
具体的に模倣を獲得するためには?
模倣を獲得するには、スモールステップを踏んで、「できた」という成功体験を積み重ねていきます。
模倣を獲得するには、動作模倣と音声模倣が必要です。
お子さんの様子をみながら、同時並行で取り組んでもOKです。
動作模倣
まずは、体を使って、相手の動作をまねることから始めてみましょう。
最初は、頭・腕・お腹・足など、子供にとって分かり易い部分から始めます(粗大運動)
ただし、始める前にお子さんの注意をよく引いた状態で行ってください。
例えば、子供と向かい合うようにして、「せーのっ!あたま!」と言って、両手を頭に乗せます。
お子さんができたら、大げさに褒めてあげてください。
お子さんが大丈夫ならば、くすぐりをすることもOKです。
是非お子さんと楽しみながらやってあげてください。
我が家では、しょっちゅうパパが「せーのっ!おなかっ!」と言っては子供達と遊んでくれました。
子供達も、楽しそうにゲラゲラ笑っては、一緒に遊んでいました。
これにより、お子さんは、親と同じ動作をすると褒められる・自分が楽しいことがされるという、プラスの経験を得ることができます。
これが、できるようになったら、目・鼻・口・耳など、細かい部分へと変えていきます(微細運動)
最終的には、手遊び歌ができるのを目標にしてみてください。
音声模倣
動作模倣の中で、微細運動ができるようになったら、口形模倣の練習ができます。
口形模倣とは、口をあけたり、唇をすぼめたり、舌をだす等です。
これができることによって、音声模倣の土台が出来ていきます。
次の段階として、あなたは、お子さんのどんな声でも、真似てみてください。
同時に、お子さんの動作を、真似ることもOKです。
これを「逆模倣」といいます。
この逆模倣をしていくと、子供は意識するかのように、大人の方を見るようになってきます。
すると、今度は子供が、大人の方を見たら、まねをするようになっていきます。
そして、この次の段階として、子供の発声を、大人が正しい表現に直して返します。
これを「拡充模倣」といいます。
例えば、お子さんが「ちょうだい」を「あーあい」といった場合、あなたは「ちょうだい」と言い直して返してください。
お子さんが、大好きなものを使って行うと取り組みやすいです。
注意すること
お子さんの様子をみながら
模倣獲得の練習は、自閉症児にとって負担がかかります。
お子さんに無理なく進めれるように、練習時間は短くしてください。
そして、休憩を挟んでは、繰り返し行うようにしましょう。
また、楽しく進めるためにも、お子さんの好きなものを使ってみるのもいいと思います。
最初は、お菓子などから進めてみるのもいいですが、できるだけ「くすぐり」や「ハイタッチ」など人からの働きかけに変えれるようにしてください。
日常生活の中で、お子さんが頑張った時に、タイミングよくお菓子を出せない時もあります。
そのため、他者から「すごいね」と言われ、ハイタッチされる働きによって、お子さんの意欲が上がるように移行してみてください。
やり方を変えてみる
練習を進めていく上で、上手く出来ない時があるかもしれません。
長男に「ちょうだい」を言わせようとしましたが、いつも受身で、自発語が全くありませんでした。
大好きなチョコレートを長男の目の前に差し出しても、無言で取ろうとするだけ。
そこで、絵カードを取り入れました。
チョコレートの絵カードを長男が差し出したら、チョコレートをあげていました。
そして、長男がこの行動を理解した頃に、「ちょうだい」を取り入れたのです。
これは、2人体制で行いました。
パパは長男の後ろにいて、長男を補助しました。
長男が、カードを私に差し出した時、パパが「ちょうだい」と言います。
そして、そのあとにチョコレートを長男に渡します。
これを何度か繰り返します。
そして、今度は長男1人でさせてみます。
カードを差し出した時、しばらく待って様子をみます。
もし、何もなければ、長男の後ろから、「ちょ・う・だ・い」と少しずつ言葉を伝えます。
そして、長男が「ちょうだい」もしくは、それらしい言葉を言えたら、すぐに褒めてチョコレートを渡します。
最終的には、絵カードを自主的に出して、「ちょうだい」が言えるようになりました。
今では、絵カードなしでも「ちょうだい」と私達に伝えられるように成長しました。
お子さんによって、上手くいかないときは、写真や絵カードを使ったりするのがいいと思います。
そして、お子さんが徐々に馴染んできた時には、それらを少しずつなくしていくように進めてみましょう。
やり方は夫婦で共有しておくこと
模倣の練習は、日常生活の中でもできます。
先ほどの長男の「ちょうだい」の練習は、チョコレート以外にもお茶や他の要求の練習にも繋がります。
でも、お母さんは絵カード+「ちょうだい」で、お茶をくれる。
一方、お父さんは絵カードだけで、お茶をくれる。
やり方を統一しないと、お子さんは混乱してしまいます。
そのため、お子さんとのやり取りをどうしているか、きちんと情報を共有してください。
情報を統一するのに、ご夫婦で一緒に取り組むのは、とても良い事だと思います。
お子さんによっては、最初サポートが必要な場合があります。
どちらかが指示出し役、どちらかがサポート役で分担すると、お子さんもやり易くなるでしょう。
また、何よりお母さん・お父さんの2人に褒められると、お子さんはもっと嬉しいです。
できるだけご夫婦で、やってみてください。
逆さバイバイは、どうしてみる?
自閉症児は、視界で見たもののを、忠実に表現します。
例えば、逆さバイバイだったら、子供の視点では、相手の手ひらが見えます。
それと同じように、自分の手のひらを、自分の方に向けてしまうのです。
「逆さバイバイ」の向きは、いずれ改善します。
我が家の長男も、療育を始めた3歳頃は、逆さバイバイをしていました。
そのため、長男が逆さバイバイをした時、次のやり方を試してみました。
- 長男の手を持ち、正しい方向にむけて、バイバイする
- 1.に慣れてきたら、長男の手の側で、正しい方向のバイバイをし、お手本をみせる
- お手本をみて上手くできなかったら、もう一度、1.から試してみる
- お手本をみて出来た場合は、必ず「すごいね~」と言って、必ず褒める
これを繰り返していくうちに、自然と改善したのです。
今では、ピースサインもできるようになりました。
まとめ
模倣の練習は、獲得することだけを目標にしていると、お子さんにとって負担がかかります。
そのため、人との関わることの喜びが芽生えるように、楽しく取り組むことが大事です。
お子さんが楽しく取り組んでいくことが、やがて模倣の獲得に繋がります。
そして、あなたがお子さんを褒めることで、さらにお子さんが意欲的になると思います。
練習は、お子さんに無理のない短い時間で、回数を多くこなすようにしてみてください。
もちろん、日常の遊びの中でしてもOKです。
また、模倣獲得には、動作模倣・音声模倣が必要です。
お子さんによっては、特に音声模倣が苦手かもしれません。
写真や絵カードを使い、スモールステップを踏んでみてください。
また、お子さんが、今どの段階で、どんな練習をしているか?
ご夫婦で情報を共有することで、お子さんの混乱を避けることができます。
そして、ご夫婦で取り組むことにより、お子さんのできたときの喜びを一緒に分かち合えるでしょう。
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